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September 12, 2004

持たざる強み、持てる弱み

「昔は出来ていた」のに、何かをきっかけに「今は出来なくなった」ことが、世の中にはあるらしい。

それは小学校時代のとある読書感想文コンクール。僕はある小説の感想文でたまたま賞を取った。期せずして、「その作者」と会する機会を得た僕は、その場で作者から新刊を手渡された。作者とはその後、文通する間柄となった。出たばかりの新刊を貰い、また読書感想文の対象にした作者と直々に会ったことですっかり舞い上がっていた僕は、新刊を題材にさっそく次の感想文を書いた。幸いにも感想文はまた別の賞を獲得したが、その感想文を意気揚々と作者に送ったところ、前ほどの評価が得られなかった。むしろ、酷評された。「前の感想文のように、もっと鋭く突っ込みが欲しかった」と。
ひとたび知り合ってしまったために、僕の筆致は精細や鋭敏さを欠いていたようであった。大きな違いは、僕の感想文で登場する三人称がすべて、「××さんは・・・」になっていたこと。一度でも面識がある方ゆえの、『さん』という敬称だが、これは僕の文章における「手加減」を象徴的に表している表現と思った。

僕のケースを見てもそうかも知れないが、それは、「意識する」或いは「持てる」ことによる変化ではないだろうか。
一個の人間を見る限りにおいて、過去よりも現在のほうが、知覚・認識に関するレベルは向上するものとボクは基本的に考える。にもかかわらず、以前は意識することなく「自然に出ていた実力」が、意識することにより急激に低下しているように見える。全く以って不可思議なトリックだ。

「以前は出来ていたこと、が出来なくなる」現象を、ひとは「スランプ」と称することもある。
すなわち「スランプ」とは、ある一定のレベルに達した人物や何がしかを獲得した者にのみ、発生する状況のことなのではないだろうか。そして多くのひとがこの「スランプ」に至って、葛藤や煩悶を繰り返す。「前は出来たのに、なぜ今はできない?自分は××を失ってしまったのだ」と。

甚だ希望的な観測なのかも知れないが、人間そう簡単に、前に獲得していたことや、昔は出来ていた物事を喪失するものではないと思う。ただ、自意識の与える罠が、自らを縛り方向付けているだけのことだ。「意識」や「自覚」を健全に獲得してしまったがために、かえって以前のパフォーマンスが出せなくなる、或いは弱化してしまうように感じられるものだ。往々にしてひとは、こうした状況を自責するが。
確かに、あるスポットや局面において、前例と同様の実力を出すことが求められることは少なくない。しかし、その際に実力が出せないからといって、簡単に「失った」と感じるのは早計であろう。何ごとかを獲得するというのは、そう生易しいことではないように思う。獲得のために、ある特性に傷がつくことをも覚悟しなければならないからだ。
同じ定規で見れば、『前回と違うパフォーマンスである』という現象面しか測れないが、一個の人間の中で起きた変化の総体としては、「モノを知ってしまった」分、思考の深まりがきっと有るに違いない。現象面は弱くなれど、思考面は深まっている。それじゃダメなんですかねえ?

繰り返すが、何かを獲得したことで弱くなるというトリックが、人間をやっていれば、ときたま起こる。
人間そんなに器用じゃない。あの頃覚えた年号や、あの頃解けた方程式が、思い出せなくても解けなくてもいい。「忘却」と「退化」とは異なる性質のものなのだから。何かの特質が強くなれば、もしくは、以前の状況よりもよりビビッドな現実を目の前にすれば、必然的に変わらざるを得ない、というだけのことだ。
恐れてはいけない。獲得したものと弱くなったものとの大小なんて、いったい誰が量れるというのだろう?

むしろ、変わらぬことをこそ、恐れるべきなのに。

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Comments

はじめまして。
色々歩いていたら
ココへたどり着きました。

>「以前は出来ていたこと、が出来なくなる」
最近 ちょうどそれを感じていました。
私は絵本作家を目指していますが
絵本を描いていてふと思うことがあります。

それは
「子供から見た視線と感覚」です

大人になってしまったアタシには
普通に見えるものでも
子供からすれば不思議なものに感じるものもある
大人になってしまったアタシには
見えなくなってしまったものが沢山あるんです・・・

長々と描いてしまいました。すいません。
またチョコチョコよらせていただきます♪

Posted by: ロッタ | September 15, 2004 at 01:46 AM

>ロッタ様
はじめまして。かどぅと申します。
お越しいただきまして、大変光栄でございます!

>「子供から見た視線と感覚」
なるほど、、確かに絵本などを書かれるときには、
このような視点が求められるのでしょうね。
「昔は見えていたものが、見えなくなってしまう」ってなんだか、不思議なマジックのようにも思います。ちなみに、僕は以前にブログで↓のような記事を書きました。よろしければ拙文ですがご覧下さい。。

オトナ論
クレしん映画

ロッタさんのサイトも、ちらりと拝見させて頂いただけですが、絵本やアイテムグッズなど、色々とご案内があって楽しそうですね!
是非今度、じっくりお伺いさせてください。

今後とも、よろしくお願いします m(_ _)m

Posted by: かどぅ | September 15, 2004 at 02:50 PM

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